前回初見後の評価から変わりつつあるので再度。公演を重ねるごとに舞台も変化するし、見てる側としての受け取り方も変わるよね。
言い訳ですが、何度も見てたらそりゃハマりはする。毎日ヒカステのことを考えています。
演出 ☆☆☆☆
打つシーンに於ける緩急。トドメを刺すような象徴的な一手に与えられる打音とスポットライト。原作やアニメでは「その手」として与えられる集中線が、舞台では「その人物の打った一手」という大きめの主語で強調される。ワンカットごとの切れ間でなく人物にフォーカスを当てた時間の流れが分かる舞台だからこそ、こういった視覚的/聴覚的象徴描写がより染み入るのだろうな。スポットライト以外にも全体のライト(色変わるやつ。なんて言うんだろう?)で心情ごとに青、赤、そして闇と切り替わる演出、「その行動」がどれだけ相手の心を揺さぶったのか、より臨場感を持って伝わってくる。
ダンス。ダンスは完全に舞台用だけど、彼らが楽しんで打っている描写であると同時に、各々の打ち方の個性をもダンスで表現している。我流の強さで翻弄する三谷、着実に一手を確かめる筒井さん、相手の流れの中で踏み込まれた時その隙をついて逆転するヒカル。原作以上に盤面そのものが描かれないのにこんなに丁寧に碁を打つことを表現しようとしているのは凄い。これがダンスなのも凄い。
殺陣。原作でも対局を刀での戦いに見立てて描いてるところがある分、それを舞台上で実際に刀を持ってフルで見せられると、原作がやりたかった戦いの気迫や棋士の緊迫感が再現されているようでダイレクトに伝わる。ハラハラする。そして佐為とアキラの戦いでしかこれは起きない。前述のダンスと殺陣、この違いは純粋に、まさしく命がけで戦っているかどうかの話になる。今後もきっと殺陣をポンポン出しはしないだろうし、だからこそ迫力が出るのだろう。
他にも、アキラの目隠し碁、盤面の宇宙、三面打ちの回転と言いたいことはたくさんあるけど終わりが無い。
「一方その頃」と「回想」の演出があまり差別化されていない点。慣れたら理解できる。
佐為の登場演出。アニメでの幻想描写が最強すぎるというのはあるかもしれないけど。
脚本 ☆☆☆
『ヒカルのストーリー』に軸を絞りきったのは英断だと思う。原作は色んな人の色んな思惑が混じり合って構成されていて、人物描写がかなり繊細なのが作品としてのウリの一つではあるけど、いかんせん詰め込もうとすると情報がとっちらかってしまうのでこれで良かったと思う。原作の完全再現でも舞台オリジナルのカットでもなく、『2時間20分の一つの舞台』という視点で見た時どれだけ観客に物語を伝えられているか、それが論点(?)になると思う。
そういう意味で、ヒカルと佐為、そしてアキラの心情をきっちり丁寧に出し切ったのは素直にすごい。